第一章
クラブガズー

一人の男がGAZOOに来た。
 白いスーツの中に黒いシャツを着た黒人男。
 彼はGAZOOに入る前から少し違和感を感じていた。
「ここは・・・ジャズをやるようなクラブなのかな・・・」
 彼の手には、サックスの入ったトランクが下げられている。
 他の客のいでたちが彼を全身で拒んでいた。
 今日は他のフロアで何か違うイベントがあるのかな・・・?入り口を間違えたのかな。まあまず入ってしまえ。
 入ってみると、どうも従業員通用口から入ってしまったようだった。
 フロアへ入る入り口、重い厚い鉄の扉・・・暗い中に、塗料がブラックライトで浮き上がらせる模様がどう考えても異様なもの、腰で繋がった双生児が絡み合ったレリーフが施されている・・・を開けようとすると、女に呼び止められた。
「お客様、最初にこちらでお支払いを」
「あ・・・あの、ええと、ミスター・H・ドリンの紹介で来た者です」
彼の名を言えば、通してくれるはずだ。
「ミスター・H・ドリン?さぁ・・・こちらにはそういった方はおりません。お支払いは、男性はワンドリンクで40ドルです」
「いや、彼に呼ばれてきたんだけれど・・・入り口で名を言えって」
「おりません。40ドルです」
仕方ないので彼は財布を胸から取り出すと舌打ちした。
 ドリンめ、話をつけてくれなかったのかな・・・
 改めて女を見て、彼はその希望的観測を打ち消した。違うな。こりゃ最初ッから違ったんだ。ドリンめ、自分の趣味に引きずり込んだな。
 彼女のいでたちがトップレスのレザー・コルセットにガーター、ひざ上まであるハイヒール・ブーツだったからだ。
「ちくしょう、フェティッシュ・クラブかよ・・・」
 サックスのトランクが一層重くなった。
 とりあえずドリンを探そう。

 扉を開けると、オルガンとダンス・ビートの洪水が彼を打ちすえた。
「うわッ」
 コーンロウの頭をのけぞらせて彼は一瞬ひるむ。
 扉をあけたすぐそこに、レリーフの双生児がいた。腰でつながった全身を包む真っ赤なラバータイツ。目の部分にはめ込まれた漆黒のレンズ。異様な昆虫のように、その双生児の像はそこに夢見るようなポーズを取っていた。
「なんてものを置いてるんだ」
 何気なく触ると暖かく、弾力が彼の指をはじき返したので、男は生理的な嫌悪感でいっぱいになった。その瞬間、二つのタイツにくるまれた頭が彼の方をぐるりと向き、

「ハロー!」

と和音で叫んだ。低音と高音の男の声だった。
 人間オブジェ・・・。
 それどころじゃない。
 他の客が全て、男にとっては異様だった。
 ボンデージ、全身タトゥ、特殊メイクは大人しいほうであって、猫の顔に自分を改造した3人娘が居、黒いウェディング・ドレスに身を包み、胸にナイフを突き立てた赤ん坊のマネキンをいとおしそうに抱いた男・・・男だ・・・も居る。
 ゲイバーでのライヴを何度か経験している彼でさえ、その美意識は理解できなかった。
 金曜の夜だ。かなり混みあい、ラウンジにすらなかなか近づけない。もう一回外に出、ドリンに電話をしようかと思ったが、後ろから777フィーバーのコインみたいに人が溢れてきてもう前に進むよりほか無かった。
 こうなったら、ドリンに問いただし、謝ってもらうぞ。
 おかしいじゃないか、俺はジャズのライヴで、急遽サックスの代役を頼まれたはずだ。
 こんな・・・ゴシック・イベントでサックスなんかやるわけない!以前からドリンは俺をこういった場所に連れてきたがっていた。
 嘘をついたな・・・!
 怒りと、いい加減このパイプオルガンを打ち込みで異常変化させた音楽に彼の耳が悲鳴をあげていた。
「チクショウ、ドリン、どこだ!」

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