第七章
処刑開始前

 クラブ:GAZOOは、そのストリート・・・クラブの建ち並ぶいささか雑多で薄汚れた、ドラッグとマリファナと人々の変身願望がひしめく通りに、目立つともなく立っているビルの地下にある。
 そのビルの所有者はもちろんゴードン・ジェフリー・フィルズベリだ。事業家フィルズベリ氏の一人息子・・・。
 だがフィルズベリ伯は、ジェフリーではない男を養子に迎えるとその男を後継ぎにたてた。ジェフリーは、氏にとって恐ろしい子供だったからだ。あの事件。あのことが無ければ・・・氏は養子を迎える事もしなかったろう。
 世間は養子をとった氏について、いろいろと嗅ぎ回ったが、氏は
 「ジェフリーは立派な私の息子である。しかし、彼にはやりたいことがあるという。私は父として、それを後押ししてやりたい。養子は、私の事業を深く理解し、また存続の確固とした意思のあるものを選んだ。そういうことだ」
と、あくまで曖昧に終わらせた。
 ジェフリーは勿論、父の血筋であるとか、屋敷や土地、事業の存続だとかには、まったく興味がなかった。
 母にだけ、その目を向けた。・・・母譲りのアイリッシュの血、緑色の目を。
 その母も、結局は死んで、養子が来て、父が後妻を娶るとジェフリーは屋敷を出、好きなように自分の事業を始めた。おととしのことだ。内容はクラブ、オカルト、フェティッシュ・シーンに姿を借りた、ある傾向の組織を作ること。
 表面的なエンターテイメントの裏に自分の野望、宗教を確立させる。
 自分のような性癖の持主はそこらへんに転がっている。
 そのエナジイを、多くは解放する場所を持たないで、持とうとしないで諦めているか、そういった場所を見つけられずにひっそりと己を押し沈めて生きているのだ。
 俺がそれを統括したら、世界は変わるだろう。
 ジェフリーの幼い頃からの夢は、どんな形であっても、偶像になることだった。
 今、彼はじょじょに偶像となりつつある・・・病んだ人間達の崇拝の対象。
 オカルトとクラブ・シーンの融合。
 気がつかぬうちに彼の手中にはまる、サブカルチャーの世界に入ることでアナーキーぶりたい、または真性の人間達。
 金持ちの血筋であることが箔になり、彼の悪魔的な容姿も役にたった。
 もうすこしだ。
 俺は自分の教団を作り上げる。恐怖を追い求める人間のなんと多いことか・・・。
 タナトス・コンプレックスを謳う教団マリアン・カナビスは少しずつだが着実に形を取り始めていた。
 その一つが13ケージ。GAZOOのあるビルの上部を、彼が雇った手足である幹部たちの住居としている。完全に世間と隔離された、まさにジェフリーの教団の要である。主だった幹部はジェフリーを含め13人存在し、各々は『外界』に住むことを赦されない。
 ケージ・・・監獄。
 そのケージに住む一人の画家がいる。
 彼はロシアから来た、ジェフリーがパピヨンの次にVIP入りさせた男だった。名を、アンドレイという。
 アンドレイは朝から晩までキャンバスに向かい、黙々と創作を続ける。
(我が君主・・・リリト神の唯一の媒体・・・偶像・・・)
(素晴らしい・・・死・・・讃えよ・・・私はアンドレイ、神の手であり足である)
(ああ、我が君主に全てを・・・リリトたるジェフリー・フィルズベリ。私の生涯は彼の伝導となる芸術を残す事だ)
 部屋中に広がる彼の崇拝の世界は、油絵の具の香りに満ちて、アンドレイを恍惚とさせる。

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